暗黒面の弱点

「うーん……うーん……」

愛子「ゲスが…!(小声) ペッ!(ガム)」
アヤ「…(゜Д゜;)」

「はっ!!……夢?」
 連日の生放送で疲れが溜まっていた愛子は、誰も居ないメイク室でウトウトしていたのだ。
「イヤだ、私ってそうなの?」
 鏡にうつる自分の顔は、うっすらと汗ばんでいた。彼女は慌てて腕時計を外し、ビオレさらさらシートで念入りに左手首をぬぐい始めた。
 
 と、そこに彩が。
「おっはよー! ってあれ、愛ちゃーん、また悪い夢見ちゃったのー?」
「…………」
「大丈夫よっ! 誰にでも『嫌な自分』があるって言ったでしょ? 愛ちゃんは我慢し過ぎなぐらいよ。たまにはパーッと発散したら? またいつでも相談に乗るわよ!」
「彩さん……けっこうお酒臭いですよ……」
「あ。やっぱりわかるよねー。一応シャワーしてきたんだけど」
「また帰ってないんですね?」
「んー帰ったって何にも無いしね。ちょっとケンカ中だし……。愛ちゃんは? ああっ! も・し・か・し・て! 噂の遠距離カレがこっち来てるとか? 紹介してよっ、ちゃんとしたオトコか見たげるー。今晩三人で飲みに行こう! オー!」
 徹夜明けの彩は、妙に高いテンションで、愛子の肩に腕を回し顔に息がかからんばかりに誘い続けた。体を強張らせた愛子が意味も無くぬぐい続けてしまった左手首は、もう真っ赤になっていた。
 実は愛子は一度だけ、彩に誘われて二人で飲みに行ったことがあるのだが……そのときのショックで、以後はいろいろ理由を付けて断っていたのだった。でも今度は逃げられそうにない。
 
 愛子が諦め、今にも「はい」と言いそうになったそのとき、第三の女・美奈子が現れた。
「おはようございまーす。ん? どしたの? なになに? って酒クサー!」
 美奈子はぜんぜん事情を把握していなかったが、(と言うよりいつでも状況を把握していないのだが、)それが良かった。彼女が彩の注意を引いてくれたおかげで、腕時計をわしづかみにした愛子はそそくさとメイク室を出て行くことに成功したのだ!
 
「もー。副部長(軽部アナ)にまた怒られますよー?」
「大丈夫大丈夫。なんか『SMAPの新曲イイ!』とかってヘッドホンつけっ放しでさ、たぶんあのまま全体確認ナシで本番だから平気平気!」
「はーあ。大塚さんは甘やかすしなぁ。やりたい放題ですね」
「あっそうそう、やりたい放題ついでに、ちょっとお願い!」
「なんですかっ」
「今日の『ちょっそこ』ね、レポーター無しのVじゃない? 原稿読み私の番なんだけど、代わってくんないかなぁ。なんか字見てると気持ち悪くって」
「んもう。あのう、PRIDEに私出してって話、頼んでくれてるんでしょうね?」
「うんうん、やってるやってるぅ!」
「じゃー今日だけですよ? で、『ミナもと』はと……あぁ! ヒマワリの種じゃないですか!」
「フフフッ! 頼んじゃった。お酒欲しくなるねぇ」
「ったくこの人は」
「あっ! ねーねー、愛ちゃんにヒマワリの種食べさせて『リスみたい』ってどう? 名案ー」
「はいはい。じゃー『リ・ス・み・た・い』っと」
「ダーメ! 本人に言わせるの! 『ポリポリッ、なんかリスみたーい』って。カワイー!」
「もー。愛ちゃん天気の打合せ入っちゃってますよ」
「そこはー、あ・な・た・し・だ・い」
「…………」
 
 この目論見は本番で失敗する。先日の見切れ事件で「愛ちゃんファン」となってしまったカメラマンは、「手で直接食べたら、愛ちゃんの美しい手が汚れて映っちゃう」と、ヨーグルト用の小さなガラス容器と可愛いスプーンを用意させていた。そして、これが敗因となった。
 「元気のミナもと」コーナー開始。愛子、スコン落ち成功。好物の種を指で直接摘んで食べ、喜ぶ彩。その一方で、ヒマワリの種は初めてと言う愛子に、美奈子が懸命に話を振る。
「(ヒマワリの種を食べると)なんかね、リスになった気分なんだよ。愛ちゃん、食べてみて。リスになった気分になるから」
「じゃあ、リスになった気分で。パク」
 愛子はまるでヨーグルトを食べるように、器の中の種の山をスプーンですくい、口に運んだ。
「ど、どう? リスになった気分?」
「んー、ふぃ(はい)、んん? んー。フフフッ」
 鈍感な愛子は、美奈子の必死の形相に気づきもせず、笑顔で曖昧な返答を繰り返すだけだった。
 
(END)

  • この文章は、本日の「めざましテレビ」映像と整合性を取っておりますが、内容は全てフィクションです。
  • 番組シーン部分に関しては、セリフ等に誤りが確認された場合、訂正する可能性があります。(追記:ビデオで確認し、正しいセリフに修正しました)
  • 冒頭の引用部分は、tk109氏のコメント(やはりフィクションです)より抜粋させていただきました。